■英数字
VOSTOK -IDE2 Fuck Around.-




螺旋階段が伸びて居るだけで、何にも面白くなかった。
其れでもご自慢の塔は、本日も高くそびえ立って居る。
必要とされるだとか、必要とされないだとか、そんな事は関係ないようだ。

ペットボトルの水はすぐに空になった。
ハッピーなニュースは舞い降りて来なかった。
スペルマ臭い人生論を語ったら鼻で笑われた。

螺旋階段の最初の一段すら昇る気がしない。
上を見るだけで吐き気がするのは、隙間から覗いた太陽のせいだ。
其れでも此処に座り込んで煙草を吸いながら上を見上げれば
時折、女子のパンツが見える。

だから此処は楽園だ。










『IDE2 Fuck Around』










素敵な音楽が聴きたいと呟いたら、変な雑音を聴かされた。
友人はヘッドフォン片手に、其れをロックだと呼んだ。
女子は音楽雑誌のグラヴィアを眺めて騒いだ。
雑誌の中では美男子がマイクロフォン片手に空を仰いで居る。
美男子には空の上に何かが観えて居るのか。
俺には胸糞悪い太陽と、女子のパンツくらいしか見えないけれど。

音楽雑誌を取り上げて、窓から捨ててやった。
其れからついでにヘッドフォンも捨ててやった。

そうじゃないんだな。
そうじゃないんだよ。
イエーとか叫んでたらロックな訳じゃないんだぜ。

だから俺は本日もまた糞つまらない螺旋階段の下に居るんだ。
昇る訳でも降る訳でも無く、此処に居るんだよ。
そしてまた、あの子の事を考える。

あの子は変な子だったから、今頃どうしてるかな。
ちゃんと向こうで上手くやれてるかな。
あの子はほんの一時期だけ、俺の隣に座ってた。
糞つまらない螺旋階段の下で、俺と一緒に座ってた。

あの子はよく空を観て居た。
吐き気がするくらい眩しい太陽と
時折は、あの子と同性のパンツと
あとは他に何が観える訳でもないのに。

此処は日陰で気持ちが良い。
其れくらいが此処の良いところだ。
下手に上なんて観るモンじゃないんだ。
せっかくの気持ち良さが損なわれてしまう。

煙草を吸った。
何本も吸った。

別に煙草は好きではないけれど
他にする事もないから吸った。
煙を眺めるのは好きだ。

初めて煙草を吸った日は、あの子が隣に居た。
俺が煙草を取り出す姿を
あの子は何も言わずに眺めた。
俺も何も言わずに煙草の箱を眺めた。

別に煙草を吸ってみたかった訳じゃなくて
ラッキーストライクの箱に描いてあるインディアンの顔が
横から見ると原爆のマークに見えるという噂話を耳にしたから
何となく見てみたかっただけだ。

煙草を一本取り出して、百円ライターで火を点けた。
チリリと小さな音がして、先端が赤くなった。
先端を眺めながら、大きく息を吸い込んだ。
むせた。

ゴホゴホと煙を吐き出したら、目に染みた。
人間の吸うモンじゃないと思った。
其れでも頑張って二本目にトライしてみた。

隣で、あの子が泣いた。
煙が目に入ったのかと思ったら、そうじゃなかった。
あの子は俺の目を見ながら、何粒もの涙を零した。


「君が汚れちゃった」


あの子は言った。

原爆のマークなんて見えやしなかった。








螺旋階段が伸びて居るだけで、何にも面白くなかった。
其れでもご自慢の塔は、本日も高くそびえ立って居る。
必要とされるだとか、必要とされないだとか、そんな事は関係ないようだ。

ペットボトルの水はすぐに空になった。
ハッピーなニュースは舞い降りて来なかった。
スペルマ臭い人生論を語ったら鼻で笑われた。

行く場所も無ければ、戻る場所も無いのは
俺が今も、此処に居るからだ。
其れだけの事だ。

あの子は空ばかり眺めた。
何が観える?
あの日、俺は尋ねた。
すると、あの子は呟いた。


「ボストークが観える」


確かに、そう呟いた。
其の日で、あの子は消えてしまった。

ボストーク?
俺にはボストークなんて見えやしない。

螺旋階段の最初の一段すら昇る気がしない。
上を見るだけで吐き気がするのは、隙間から覗いた太陽のせいだ。
其れでも此処に座り込んで煙草を吸いながら上を見上げれば
時折、女子のパンツが見える。

だから此処は楽園だ。

嗚呼、其れでも。

こんな楽園で死ぬのは嫌だな。
女子のパンツを眺めながら死ねたら、幸せだろうか。
いいや、幸せな訳が無い。
いいや、幸せで在る訳が無い。

俺は其のパンツに触れたいと思った。
俺は其のパンツの中に手を入れたいと思った。
俺は其のパンツの中に顔を埋めて眠りたいと思った。
そして、其れがあの子のパンツだったら良いのに、と思った。

傷付いたり、嘘吐いたり、無くしたり、零したり
そういう事柄には、もう随分と慣れた気で居るのだけれど
まるで煙草を吸うように、また色んなモノを吸い込んでるのさ。

灰の中で気付いた古びた命の話と
胚の中で根付いた新しい命の話だ。

本物だけを見極める目が欲しいのだけれど
偽物だらけの中からようやく自分で選んだモノを
俺達は本物だと信じては、そう呼ぶだけかもしれない。

そして其れが、素敵な事なのさ。

相対的な事象と絶対的な事象を同時に語る
俺の頭の中を理解してくれよ。
是は大切な話なんだ。

俺は笑いたい。
あの子を笑わせたい。

あの子を笑わせる為に
世界を笑わせてやるのさ。

あの子が笑ってくれたら
俺は幸せなのさ。

だから俺はあの子が笑える
世界を創るのさ。

あの子を構成する日常を
其の平凡で素敵な日常を
俺は守りたいのさ。

其処には、偽物も本物も無い。
其れ故に、相対も絶対も無い。

只、其処には
沢山の人が笑ってる
素敵な現実が在るだけさ。










何となく俺は、螺旋階段を昇り始めた。










イエーとか叫んでたらロックな訳じゃないんだぜ。

絵を描くんでも、詩を書くんでも、壷を焼くんでも
料理するんでも、勉強するんでも、仕事するんでも
歩くんでも、走るんでも、休むんでも
朝になれば起きるんでも、夜になれば寝るんでも
もっと言えば小便するんでも、ロックは存在するんじゃないのか。

そこで俺達は考える訳だよな。
アレがロックだ、コレがロックだ、と俺達は騒いで居るけれど
カシスソーダを眺めて、カシスソーダだ、と判断するのは愚かだし
ボストークを眺めて、ボストークだ、と興奮するのは虚しいだろうよ。

各々の主張を繰り返す内に、俺達は真実なんて見失うのさ。
個々の、他の何者でもない視点を、後生大事に叫び給えよ。

狼が出たぞ。
狼が出たぞ。

信じてたモンは一個だけか。
いいや、違うね。
様々は、既に、歪んで居るのさ。

唇を噤んでしまえば
瞳を閉じてしまえば
拳を結んでしまえば
随分と楽なのさ。

其れでも、嗚呼、気に食わねぇなぁ。

だから俺は

話す。

観る。

殴る。



昇る。



昇る。



昇る。



螺旋階段の途中で、一服しよう。



気が付けば汚れてしまった俺は、俺達は
其れでも尚、絶対に純粋だよ。

だから大丈夫。
諦めんな。
責めんな。

だって、まだ何ひとつ納得してない。

まだ何ひとつ触れてない。

まだ何ひとつ歌ってない。

まだ何ひとつ笑ってない。










青空。










まぁ、とりあえず昇ってみよう。

もしも何処かで誰かが小さく微笑んだら

其の時にはもう一度

パンツと、ロックと、あの子の事を考えよう。




ボストークを、眺めよう。

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