■英数字
5分13秒のゴッホ




何も言わないならさ、そりゃ何も言わないって事だよ。

夏なのに冬の話をするのは馬鹿げてるけれど、
夏なのに夏の話をする事で、暑さを煽るような真似をするならば、やっぱり馬鹿げてる。
白と黒が在るように、夏と冬が在るのだと仮定した上でだよ、
どちらにも共通するのは、厳密な夏と冬の頂点と、厳密な黒と白の頂点を、本当は誰も知らないって事なのさ。

漠然の灰色が、抜群な濃淡を効かせている。
それを僕等は、黒に近い灰色だとか、白に近い灰色だとか、
時には黒だと言い切ったり、白だと言い切ったりしてるだけなんだ。
同じように今は夏なんだけど、やっぱりそれは冬の延長線上に在る。

だから僕が君に冬の話をするのだとしたらさ、それはきっと夏の話だよ。
Iggy Pop が Lust For Life で見せたような、会心の笑顔で、僕は君に話しかけるべきなんだ。
5分13秒の、長いような短いような一曲の中で、僕は君に話しかける。

居ても居なくても、どちらでも良い存在になんて、僕はなりたくないんだよ。
世界を塗り潰したとしても、世界を握り潰したとしても、嗚呼、きっと今の僕は空虚だ。
だってきっと何時か、君は何処かへ行ってしまうんだもの。

行くも、止まるも、生きるも、死ぬも、僕等は自由なはずなんだけど、
きっと秋が来て冬が来るように、またその延長線上に夏が来るように、
それを何度も繰り返してるだけのように、その度に思うように、僕は知って欲しいだけなんだ。

嗚呼、それでもきっと全ては移り変わるし、
一ヶ月前に流れた悲惨なニュースが今ではどの紙面も飾らないように、
そんな事もあったねと、冷たい麦茶なんか飲みながら考えるようになる。

君は、僕の知らない町に移り住むかもしれないし、僕の知らない人に抱かれて朝を迎えたりもするだろう。
きっと健全だ。
そこで僕は、僕自身の陰鬱や空虚を、もう言葉にしてしまう以外は他に何も思い付かないという訳だ。

そしてこれは言葉にしたというだけで、何も言わないならさ、そりゃ何も言わないって事だよ。
只、僕は答を探してるんだ。それが黒だろうと、白だろうと、やっぱり灰色だろうと、僕は答を探してるんだ。
そこで見付けた灰色を、限りなく黒だとか、限りなく白だとか、または限りなく灰色らしい灰色だとかを、
やぁ赤色だとか、やぁ青色だとか、やぁ緑色だとか、いやもしかして虹のようだとか、言うんだよ。
それから、オレンジ色だとか。

行くも、止まるも、生きるも、死ぬも、僕等は自由なはずなんだけど、
それでもやっぱり、僕は君に話しかける。
何かに満足してしまうには、あまりに僕等は移ろいすぎる。

僕等はあまりにも自由だから、僕はきっと証拠が欲しいんだ。
僕と君が、いや僕が、生きて出逢った証拠を、だよ。
それが夏だろううが、冬だろうが、延長線上に在った事に変わりはないんだけど。

忘れないでくれ。忘れてくれ。忘れはしない。忘れてしまう。

Iggy Pop が Lust For Life で見せたような、会心の笑顔で、僕は君に話しかけるべきなんだ。
5分13秒の、長いような短いような一曲の中で、僕は君に話しかける。

漠然の灰色が、抜群な濃淡を効かせている。

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