■英数字
T_w_i_M




大丈夫。
去るなら今だ。
より深く。
エグイ傷を残してやろう。

喉元から乳房へ X X X 貫通。
内臓へ。
喜びは君を忘れない事。
自由になる事。
自由にする事。

君が僕を忘れない事。
眠留。
是は夢だ。
一瞬の夢なんだ。

「んッ……」

小さく振動。
瞼を開こうとするのは君。

「……何してるの?」

何もしていない。
ただ僕は此処を去ろうとしている。
眠留の肌は降り始めた細雪のように白く。
それを僕は指で触れ、その質感だとか、その温度だとかを
最期の瞬間まで忘れたくないと思った。

「何処に行くの?」

何処に?
何処に行く訳でも無い。
ただ僕は此処に居ながら此処を去ろうとしている。
君の記憶に、半永遠的に、僕を刻み込んでしまおうと考えている。

最高の瞬間に。
最低の行為で。

眠留。
早く瞼を閉じてくれ。
次に瞼を開いた時に
そこに僕は居ないだろう。

眠留。
ああ、どうか忘れないでくれ。
ああ、どうか僕を、忘れないでくれ。
その為だけに、僕は生きている気がするよ。

大丈夫。
去るなら今だ。
より深く。
エグイ傷を残してやろう。

引き出しから、鉄砲を取り出して、コメカミへ。

ガンッ。




(そして世界は反転する)




最低の気分。
エゴ。
ナル。
反永遠的ヒロイック。
お付き合いする気はないのよ。

眠る私の隣に肢体。
ああ、何がしたい?
必要な分だけ切り取って
あとは忘れてしまいましょう。

せめて忘れてしまうなら
花を一輪
枯れるまで。

種を残して枯れるなら
楽しみ以外の何モノでもなく。

忘れられずに生きるのは
悲しみ以外の何モノでもなく。

最低の瞬間に。
最高の風景を。

そうすれば忘れずにいられたのに。
そうすれば忘れずにいられたのに。




(そして世界は回転する)




「おはよう」

眠留が呟いた。
その声で目が覚めた。
僕は瞼を開き、朝を確認する。

「ほら早く起きて、ご飯食べちゃって」

眠留はスクランブル・エッグを皿に乗せ
トーストが焼きあがるのを待ちながら、僕を見た。
僕はベッドから起き上がり、時計を眺める。八時三十分。

「変な夢、見たかな?」
「夢?」
「僕、うなされてなかったかな?」
「さて、はて」

眠留はトーストを取り出しながら「あちっ」と言った。
それを見て、僕は笑った。
何だかよく解らない朝だけれど、笑えるなら良かった。

最高の瞬間に、最低の行為を。
そうすれば、ずっと忘れずにいられる。
夢の中で僕は、きっと、そんな事を考えていた。

夢の続きは、よく覚えていない。
とにかく最低の気分で目覚める寸前だったのは確かだ。
ところが僕の隣には眠留がいて、一緒にトーストを頬張っているので、
そんな事は何だか全てどうでも良い事のような気がした。

「最低の瞬間に、最高の風景を、だよ」
「……何それ?」
眠留の発言に、僕はスクランブル・エッグを口に運びながら訊ねる。
ところが眠留は答えずに、呑気にトーストを食べながら、また笑った。
よく解らないから、僕は頬杖を付いた。……ん?

頬のラインに沿って、ザラザラとした違和感。
手を離して、指を見る。
赤色。

それが渇いた血の痕だと気付くまで、時間はかからなかった。
血の痕は僕の頬を流れ、喉元へ。
喉元から胸元まで。

血をなぞる。
原因はコメカミに辿り着く。
そうか、やはり撃ったのか、僕は……!

最低の瞬間に、眠留の一言。

「是で忘れられないでしょ?」

最高の一言。
最期の瞬間、僕は笑って。
笑って。



(そして世界は暗転する)

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