■英数字
Donut -Knack of Suck in the Snack-




教室に着くと、彼がもう来てた。

沢山の人間が集まると様々なタイプの人間が居て
待ち合わせや大切な用には決まって遅れるくせに
どうでも良い時だけは何故かやたらと早く来る奴が居る。
それが彼だ。

彼は入り口から見てる私に気付かず
窓際の席で熱心に何かを削っていた。


「おはよう、朝早くから何してるの」


「やっと来た、遅いよ、来るの」



何だと。



「あのねぇ。
 誰がこんな日に限って
 君が朝早くから学校に来てるなんて思うの。
 この雪で電車だって何本も遅れてるのにさ」


「ですよね。俺、朝飯食ってこなかったもん」


「あら。朝ご飯を抜いてまで朝から何してるの」


「朝飯作ってんの」


「は?」



朝ご飯を抜いてまでして朝ご飯を作る。

中々どうして素敵な発想ではないか。

もしかしたら哲学と呼べるかもしれない。



「どゆこと?」


「だからさ、朝飯作ってんの」


「さっきから削ってる、それ」


「そう、これ」


「なに、それ」


「かっぱえびせん」


「は?」



哲学なんかじゃなかった。



「かっぱえびせんを削って食べるとね
 何て言うか……こう……何て言うかな
 エキス……そう、エビエキスがね。
 粉からエビエキスが出てね。
 要するにね、意外とね、美味しいんだよ」


「エビエキスが」


「エビエキスが」


「はぁ……」


「エビエキスが」


「はぁ……」


「で、コレがお前の分」


「は?」



大量の粉が彼の手より差し出された。



「どうすれと?」


「食えと」


「食えと?」


沢山の人間が集まると様々なタイプの人間がいて
待ち合わせや大切な用には決まって遅れるくせに
どうでもいい時だけは何故かやたらと早く来る奴が居る。
かと思えば朝からかっぱえびせんを削って食わせる奴もいるのだ。
それが彼だ。


「さぁ!食え!たんと!」


「何でそんなテンション高いの」


「おいしゅうございますって言えよ」


「言わないし、食べないし」


「うそ」


「むり」


「お前ね……アフリカの子供達はね……」


「そう思うんだったら普通に食べなさいよ」


「それ言っちゃった」


「それ言っちゃった」


まぁ、そうは言いながら。
彼が朝ご飯を抜いてまで作った朝ご飯は
朝ご飯を抜いてまで作った朝ご飯なので
朝から削ったかっぱえびせんの粉なので
私はその粉を食べなくてはいけないのだ。
彼が朝ご飯を抜いてまで、作った朝ご飯だからなのだ。

沢山の人間が集まると様々なタイプの人間が居て
彼の削ったかっぱえびせんの粉を食べるのが
段々そんなに嫌でもなくなってくる女も居るのだ。
それが私なのだ。



外は今年一番の大雪で
電車は何本も遅れてる。

朝早い教室にはまだ誰も来ないので
彼と私はかっぱえびせんの粉を
何となく並んで
座って、食べた。



エビエキスが出て、意外と美味しかった。

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