■あ行
色白で腕が細くて髪の長い、いやらしい瞳をした女の子。




野球場で僕の左隣に座ってた女の子は、
色白で腕が細くて髪の長い、いやらしい瞳をした女の子だった。

いやらしい瞳をしているというのは、
この場合、切れ長で色気のある瞳の事を指して居る訳だけれど、
普段から色気のある瞳をして居る女の子は、もしもセックスをした場合、
どれだけいやらしい瞳になるのか気になる。

其れは単純に足し算や掛け算で計算しても良いモノだろうか。
普段から色気のある目をして居るという事は、
快感に身を任せた状態では、其れ以上の色気を放出するのかというと、
単純にそんな事はない気がする。

レンタルビデオ屋のアダルトコーナーで、
最高の笑顔で出迎えるパッケージ上の女達が、
プラズマ・ヴィジョンの中では平坦で不細工な面をぶら下げてるように、
僕の左隣で最高に色気のある瞳で野球の試合を見詰める女の子だって、
男性のリビドーを受け止める際には、間抜けな面を晒すのかもしれない。

色白の細い腕で、一生懸命に、メガホンを振り回す。
空気抵抗で骨が折れてしまうのではなかろうかと心配になる。

長い髪は背中まで伸びて、少しだけ茶色く染められて居るけれど、
恐らく其れは酷くあどけない茶色で、
どうして其れが酷くあどけない茶色なのかというと、
女の子がどう見ても中学生だったからに他ならない。

僕が先程から何を述べて居るのかを説明すると、
球場で見かけた女の子が非常に可愛らしくて、其の色の白さといい、
其の髪の長さといい、其の瞳のいやらしさといい、
おおよそ彼女を構成するほとんどに関して、彼女は僕を魅了したけれど、
唯一の問題点として、
彼女は未だ、少女と呼ぶのが適切な少女だった、という事だ。

ああ、何だ単なるロリ・コンの戯言か、
などと切り捨てられるに充分な話題ではあるが、
僕は断じてロリ・コンではなく、
其の証拠に叶美香に色気を感じる事もあれば、
何だったらアヴリル・ラヴィーンと一夜を共にさせて頂きたい。

そうではなくて、只、野球場で僕の左隣に座ってた女の子が、
相当な確率で僕の理想の容姿に近かったという話をしたいだけなのだが、
まぁ、ロリ・コンの戯言だと思って読んでくれても別に良い。

そして、この短編にオチは無い。
僕は只、こんな可愛い女の子を見たんだよ、
という記憶と事実を書き留めておきたいのであって、
別にドラマティックな展開も発生しなければ、
別にドラスティックな疑問も発生しない。

一枚の絵画を観て、其の感想を述べて居るだけに過ぎないし、
多くの人達が「今週、観た映画」だとか「今夜の夕食」だとかを、
日記に書いて載せるのと、ほとんど大差は無い。

話しても居ない女の子の内面的な魅力を書く事も不可能だ。
なので繰り返し言うが、僕が見た少女は(そう、其れは少女なのである)、
色白で腕が細くて髪の長い、いやらしい瞳をして居た。
そして其れだけだ。

もう一点付け加えるならば、ミニ・スカートがよく似合って居た。
女子中学生のミニ・スカートじゃなくて野球の試合を観ろよ、と言われても、
似合っていたのだから仕方無いし、其れが可愛らしかったのは事実だし、
嗚呼、あと五年後に出逢いたかったな、なんて思ったのも事実だ。

ロリ・コンは否定したいが、
ローリタにコンプレックスは在るか?
と問われたら首を縦に振りたい気分になり、
其れは何故かと訊ねられたら、
其れは失われた何かに対する憧憬にも近いからだ、
と答える。

もしも僕が中学生の頃に、
少女のようなクラスメイトが存在したら、
きっと、僕は少女を好きになって居ただろうし、
きっと、僕のそんな恋心なんて成就なんてする訳もなく、
きっと、だけれど、そんな中学時代の失恋の傷はとっくに癒えて、
今頃、此処に座ってたはずなんだ。

嗚呼、少女は何時の日か、そう遠くはないだろう、何時の日か、
其の色白の細い腕で誰かに触れるだろうし、
其の長くて淡い茶色の髪を誰かに撫でられるだろう。
其れから其のいやらしい瞳を、きっと更にいやらしく濡らして、
誰かに抱かれるだろう。

何故か喪失した気分だ。
喪失した気分ではあるが、失恋した気分では無く、
そもそも得る事も無いままに失う事など、本末転倒な話だ。

この気分は、きっと、夜空を眺めて綺麗な星を発見したのに、
決して手に届く事は無い事を自覚する行為に似てる。

少女は、恐らくは未だ無垢な、薄いピンク色の唇を開いて何かを叫び、
メガホンを握り締めた細い腕を、天井に向けて高く掲げた。
其れは単に、単なる、応援だった。

其のいやらしい瞳で。
一秒だけで良いから、僕を見てくれないかな、と思った。
ホームランになりそうな打球が高く舞い上がって、少女は其れを見てた。

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