■あ行
アザ・ナザ(Other AnOther)
其れで、僕は走り出した。 理由なんて無い。見当たらないし、考えたくもない。 面倒な方程式に答える暇があるならば、靴紐を固く結んで、一歩先へと進むよ。 僕は一足、真っ黒なオールスターを手に入れて、履き潰す為に履いた。 其れとまるで同じ理屈で、また本日も。
「言葉を重ねている」
という訳だ。 何にも理由なんて無い言葉をね。 両手を大きく振りながら、ストライド走法で進む途上で、あれやこれやと考えるか? 考えはしない。只、何時だって瞬間的な虚無が、僕を襲うんだ。 何で今、僕は走っているのだろ?
「止まらないからさ」
何が? 止まらないのか、止められないのか、止められないのだとしたら、何が? 血液と時間は逆流する事無く一定のリズムを刻み、まるでほとんど音楽のようだけれど、音楽では無い。 同じように欲情と扇情が僕を走らせ続けるけれど、欲しいのは刹那的な静寂なのだ。 一瞬間、闇。淡々と、光。
ようこそ、僕よ。 其れから、もう決して僕では無い、僕よ。
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