外は淡く雪。

冷えた階段を上がる音。



僕は部屋の鍵をコートのポケットから取り出しながら

袖口に浅く積もった雪を払い落とす。



其の様子を見ていた君は

黙って僕の肩や背中に積もった雪を優しく払った。



だから僕は

君の髪の毛に積もる

少し溶けかけた雪を

そっと指先で払った。



愛しく頭を撫でるように。



部屋に入ると君は

自分のコートと僕のコートを

丁寧に壁に掛けた。



ストーブだけでは中々暖まらない僕の部屋。

僕は煙草に火を点ける。



只、もう聴こえるのは

煙草がチリリと焼ける音。

雪がシンと降り続ける音。

僕と君が呼吸をしてる音。



吐き出された煙は

音もなく生まれて消える。

灰皿に煙草を押し付けると

火種は潰れ

其処で煙草の命は終わった。



そっと君は窓際に立ち

降り止まない雪を眺めた。



「今夜はホワイトクリスマスね」



何故か少しだけ

寒そうな声で君が言った。

ストーブだけでは中々暖まらない僕の部屋。



綺麗。

そして

儚い。

雪は。



僕は君の後に立つ。



綺麗。

だから

儚い。

雪は。



僕は君を抱き締める。

後から包み込むように抱き締める。

君が少し驚いたように後を振り向こうとする。

其の侭 、互いの顔を寄せ合ってキスをする。

目を閉じて。



聴こえるのは

雪がシンと降り続ける音だけで。

振り向いた君を抱き締めたままキスをする。




僕等は、居ればイイ。


僕等は此処に居ればイイ。


僕等は此処で、暖め合えばイイ。


なのにどうして


僕等は何時も不安だったんだろう?




君の襟元のボタンに手をかける。

君はビクリと驚いて

僕の手に自分の手を重ねた。

僕の手の動きを止める。

白くて小さな細い指で。

頬を紅潮させ上目で僕を見る。



僕は何も言わず

君を先程よりも強く抱き寄せ

再び唇付をした。



舌を入れる。

其れだけで君に近付けた気になる。

右手で君の襟元のボタンを外す。



静止しようとする君の細い腕を

今度は左手で抑える。

二個目のボタンを外す。



舌を転がしていた口を離すと

君は少し苦しそうに息を吐き出した。




「……だめ」




僕は三個目のボタンを外す。

君の首から耳元へと舌を這わせながら。

部屋には僕等の吐く息の音しか聞こえない。



雪は。

窓の外の雪は勢いを増して。

なのに其の音は聞こえない。



僕は四個目のボタンを外す。

左手で抑えた君の手の力は弱く。

だから僕は君の胸元に右手を入れた。




「……だめだよ」




後から


君の耳に


君の首に


君の肩に


舌を這わせていく。


君が身を捩じらせる。


君の吐く息の力が強くなる。




僕の右手は


君の乳房を


君の肉体を


君の生命を


柔く触れていく。


君が小さく声を出す。


君の吐く息の力が強くなる。




「だめ……外から見えちゃうから」




君の熱い息で窓は曇っているし


外は大量の雪で何も見えやしなかった。


だから僕は黙っている。


手と指と舌と


僕の其れ等を休ませる事無く。








なぁ。


僕等は下品なんだろうか。


こうして互いを暖め合う。


こうして互いを求め合う。


裸になったり


触れたり


舐めたり


気持ち良くなったり


何も考えられなくなったり


しながら。




なぁ。


僕等は下品なんだろうか。


右手に力を込める。


君が痛そうに顔を歪ませた。


思わずハっとして力が抜けてしまった。


僕等は床に崩れ落ちた。

























雪が、降る。

























降り落ちては溶ける。


サラリと降って


サラリと溶ける。


簡単に溶けない為には


互いが寄り添うように


冷たい夜に降り落ちて


そして降り落ちたなら


一粒一粒が固まり合う。


そうして生きるしかなくて。




其れだって


季節が来れば


簡単に溶けて


必ず溶けて。


だけど


雪が降る事は無駄じゃないだろう。




僕等は床に寝転んだまま

お互いに黙り込んでいた。

横になったままの

君の顔が僕の目の前に在った。


君が目に涙を浮かべて僕を見た。

頬を紅潮させたままで僕を見た。


何だか気分が落ち着いた僕は

何だか急に申し訳なくなって

何だか苦そうに笑った。



「……もう……バカッ……」



そう言うと君は

涙の溜まった目と

真っ赤な顔のままで

照れ臭そうに笑った。

そうして僕の元へ寄り添って来た。


僕は君を抱き寄せて

肌蹴た胸元を元に戻した。

其れから優しく頭を撫でた。


僕等が

互いを必要とし

馴れ合うように

舐め合うように

生きていくのは

決して間違いじゃない。



雪は儚い。


だが儚さを嘆かない。


僕と君は儚い。


恐らくはそうだろう。




何時か季節が来れば溶ける。


必ず、溶ける。


僕等は寄り添い在って生きる。


僕等は寄り添い在って生きる。








「好きだよ」








君が、僕に唇付をした。








暗くて冷たい僕の部屋。








ストーブだけでは中々暖まらない僕の部屋。








僕等は寄り添い合って、生きよう。



























今宵も雪よ、降れ。






冬の話 『雪』



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