■は行
白球のサイレン



























































































嗚呼、もう僕等は今すぐにでも、一秒後にも壊れてしまいそうだ!























































































Led Zeppelin が右から左へ、旋回する感じ。
Whole Lotta Love を聴きながら、昼下がりの午後を過ごすのは健全とは言えない。

テレ・ビジョンからは高校野球が流れてる。
フルカウントからの最後の一球。
しかしそれは屈強な打者にファール・カットされ、何度でも最後の一球を繰り返す。

「良い曲だね」と君が言って、「ああ、そうだね」と僕が言った。
きっと、それに似てる。
何かを繰り返すという事は、僕等の会話に似てるんだ。
何の為に繰り返すのかを知りたいならば、高校球児に訊けば良い。

熱戦は繰り広げられる。
一点差の攻防。追い詰められたら逃げるんだ。
ファール・カット。

例えば肉体や言語や文体や表現を変化させ、
時には惑星さえ変化させ、それでも君を愛撫するのだとしたら、一体、僕は何者なんだと思う?
何かを失って泣き崩れ、何かを失って嘆き叫び、
まるで同じリズムの上に存在する日常で、僕は君を食んだり舐めたりするだろう。

僕の苦しみなんて、君は知らないんだ。
君の苦しみなんて、僕は知らないんだ。
その上で、あたかも、それを理解した気になってるかもしれないけれど、
僕にせよ、君にせよ、互いの苦しみを理解した気になる事は、悲しいよ。


見事なストライク。


見逃しの三振。
円陣を組んで反撃の態勢を整えろ。
五回の裏と Heart Breaker は死ぬほど似合わない。

まだ何も終わっちゃいないんだ。
流した汗に、無駄な事なんて無いと教えてくれよ。
それとも全ては無駄なのか。全てが終わった後には、全てが良い思い出になるのか。
絶好のカーブだ。打て!

それが三振だろうと、ホームランだろうと、一秒後の事なんて解らないし、
そもそもまるで、高校野球なんて僕と君には関係ない。
蒸し暑い夏は、そろそろ終わろうとしてる。

「良い曲だね」と君が言って、「ああ、そうだね」と僕が言った。
僕がまるで変わってしまったとして。
例えば肉体や言語や文体や表現を変化させ、
時には惑星さえ変化させ、それでも君を愛撫するのだとしたら、一体、僕は何者なんだと思う?
それでも君は、僕を愛せると思う?


金属バットが甲高い音を立てて、白球が晴天の空に舞ってる。

同じ頃、きっと何処かの空では、渇いた銃声が響いてる。

同じ頃、きっと何処かの空では、濡れた産声が響いてる。

センター・フライ。


誰かの苦しみなんて、僕等は知らないんだ。
僕等の苦しみなんて、誰かは知らないんだ。
だけれどそれは悲しい事なんかじゃないって話をしたい。
知ったような気にもなるけれど、きっとそれは悲しい事じゃない。

僕等は同じ人間じゃないし、同じ人間になりたいと願うけれど、
同じ人間にはなれない事を、悲しい事だなんて思いたくないんだよ。
だって僕等が同じ人間ならば、僕等が欠けてる点は、一体誰が埋めるんだ。
また別の誰かを求めるだろう。
まったく同じ感覚を共有したとして、それは自己愛と、どう違う?

「良い曲だね」と君が言って、「いや、そうかな」と僕が言った。
まったく同じ瞬間に、フルカウントからの最後の一球は、キャッチャー・ミットに収まった。
屈強なバッターは天を仰ぎ、晴天の空にサイレンが鳴った。

誰かは泣くだろう。
誰かは笑うだろう。
同じように、君は笑った。


「もしも一秒後に、君が壊れるならば、私は二秒後に、君を見付けるわ」


君はギターを弾きながら、楽しそうに少し笑う。


「そして三秒後に抱きしめて、また君を組み直すの」


僕には高校球児の気持ちなんて解らない。
泣きながら甲子園の土なんて集めない。
流した汗の意味なんてのも知らない。
それでも思うのは Bring it on Home は、良い曲だよ。

「良い曲だね」と僕が言って、「いや、そうかな」と君が言った。
だから僕は笑って、テレ・ビジョンを消したんだ。

安心感。

包容力。

止め処なく続く、変化と安定。

Led Zeppelin が右から左へ、旋回する感じ。

Track は一曲目に戻り、 Whole Lotta Love は、繰り返される。



嗚呼、込み上げてくるんだ、何かが!



嗚呼、もう僕等は今すぐにでも、一秒後にも壊れてしまいそうだ!

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