■は行
春と自転車




今日は天気がいいね。
この辺は静かでさ、あんまり音が無いんだよね。
窓を開けると風の音と、遠くを走っていく車の音が聴こえるよ。

そろそろ花粉の季節かなぁ。厭だなぁ。
鼻水が流れるたびに、僕の憂鬱も流れてくれると良いのだけれど。
もしも誰かに、春の良いところを十個挙げろって言われたら、僕は二個しか言えないよ。

花が咲くこと。
君が元気になること。

窓の外から声が聴こえる。
ゴミ回収車が、ゴミを集める音が聴こえるよ。
大人の男達が、何やら大きな声で、何かを叫んでるんだ。
何を叫んでるのかは、よく解らない。

ヘリコプターの音が聴こえる。
もしも空が繋がっているのなら、君の住む町にも聴こえるかな。
聴こえるはずは無いけれど、もしも聴こえるならば、それほど素敵な事は、そう無いよ。

その音も次第に小さくなって、再び静かになる。

春は嫌いだ。
夏も嫌いだし、秋も嫌いなんだ。
僕は冬だけが、本当に、本当に好きなんだもの。

だけれど冬の中だけで生きていく事は出来ない。
どれほど好きだろうと、冬の中だけで生きていく事は出来ないんだ。
僕の思考など関係なしに、季節は必ず巡らなければならない、それが自然なんだ。
少なくとも、僕が、この町に住み続ける限りはね。

冬しか無い町に住めば、幸せとは思えないよ。
だって僕は、この町が好きなんだ。この町の冬が好きなんだ。
幸せってのは、ある一定の条件の中で、ほとんど偶発的に生まれてると思うよ。

だから僕は、この町の、この冬に、少し寒そうに歩いてる君が、好きだったんだ。

今日は天気がいいね。
この辺は静かでさ、あんまり音が無いんだよね。
窓を開けると風の音と、遠くを走っていく車の音が聴こえるよ。

そろそろ花粉の季節かなぁ。厭だなぁ。
鼻水が流れるたびに、僕の憂鬱も流れてくれると良いのだけれど。
もしも誰かに、春の良いところを十個挙げろって言われたら、僕は二個しか言えないよ。

花が咲くこと。
君が元気になること。

世界がそうなれば、きっと君には、僕なんか必要なくなると思うよ。
それほど喜ばしい事は他に無く、それほど誇らしい事も他に無い。
世界は、僕等が思ってるより、ほんの少しでも素敵なんだって、そのフタツが教えてくれる。
只、ほんの少しだけ、僕は憂鬱なんだ。

ああ、雪が溶けてしまうな。

僕の大好きな雪だ。

僕は冬だけが、本当に、本当に好きなんだもの。

それでも冬の中だけで生きていく訳にはいかないから、次の休みには自転車でも買うよ。

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