■は行
降らない雪(Fish/dry?=WHITE)




フィッシュ・ドライ・コード・ホワイト。

素敵な話をひとつ 聞かせてあげるよ。
だけれど どんな話だったか 忘れちゃった。
君にあげられるモノは無いかって ずっと考えてたんだ。
だけれど 僕の手の中には 相変わらず またしても何も無かった。

だから 僕は言葉を拾い上げてみたのだけれど
やっぱり言葉なんて 肝心な時ほど無力だって 僕は知っていたんだ。
それで この無力な言葉を組み上げて まったくもって何も無い 僕の手の中に
君にあげられるほど大層な何か が生まれないかと また考えているという訳だよ。

飛行機が飛んで往く夢を見たよ。
まるで ほとんど サカナのよう。
青色 の中を フワリ。
真白 の一直線。

伝えたい事なんて 何時だって ひとつだけなんだ。
伝えられない事なんて 何ひとつ無い。
その周りを 回遊している。

幼き日の傲慢は消え失せて 我慢ばかりが上手くなった。
冗舌なくせに言葉足らずで 寡黙なくせにお喋りだ。
そして降らない雪を また待ち侘びている。
降らない雪を 待ち侘びている。
また 待ち侘びている。








カナカ、其方は、どうだ。








『降らない雪(Fish/dry?=WHITE)』








「何が?」

「え?」

思わず顔を上げた僕の隣で、カナカは眉間にシワを寄せ、白い息を吐いた。

「何が?」

「何が?」

「いや、だから、今の何?」

明確に怪訝さを表明する語気で、カナカは僕の顔を覗いた。

「今のって?」

「其方はどうだ」

「其方はどうだ」

「いや、だから」

面倒そうに台詞を切ると、カナカは肩口のギターケースを背負い直した。

「ああ、おなかすいた」

横断歩道を横断すると、信号機が点滅した。
僕等は走らなかった。
商店街には明かりが灯り始め、焼き鳥屋の入口からは湯気が零れていた。
それ以外は別段、静かだった。

「何食べる?」

「え?」

「今日」

「今日」

「君ね」

カナカは実に、普段の振る舞いらしく非常に、いとも自然な常時の行動として、
眉間にシワを寄せ、僕を小さく叱ってから、やはり小さく笑った。
そして、その全てがこの瞬間、僕には不思議だった。
何故、不思議なのかは、解らない。

「会話」

「え?」

「会話してる」

「何言ってんの?」

嗚呼、僕等は会話している、と僕は思った。
それは至極当たり前の事で、何ら不思議な事では無く、
例えば水を与えると、花が咲くように。冬になると、雪が降るように。
原理の上では何の矛盾も無い、要するに、ほら。

「とても普通の事」

「は?」

「肉まん食べよう、カナカ」

「は?」

商店街に並ぶ小さな茶色い店で、僕は肉まんを一つ買った。
二つ買っても良かったけれど、きっと一つの方が楽しいから。
今、僕が何を考えて、何を話しているのか、僕にもよく解らない。
とにかく、何だろうか、この気持ちは。とても不思議な気持ちだよ。

「ね、君」

「何?」

「さっきから何なの?」

「さぁ、僕にも」

「よくわからないな」

「よくわからないな」

昔、何処かでよく似た話を聞かせた気がする。
あれは、どんな話だったかな。
ええと。

フィッシュ・ドライ・コード・ホワイト。

素敵な話を一つ 聞かせてあげるよ。
だけれど どんな話だったか 忘れちゃった。
君にあげられるモノは無いかって ずっと考えてたんだ。
だけれど 僕の手の中には 相変わらず またしても何も無かった。

だから 僕は言葉を拾い上げてみたのだけれど
やっぱり言葉なんて 肝心な時ほど無力だって 僕は知っていたんだ。
それで この無力な言葉を組み上げて まったくもって何も無い 僕の手の中に
君にあげられるほど大層な何か が生まれないかと また考えているという訳だよ。

飛行機が飛んで往く夢を見たよ。
まるで ほとんど サカナのよう。
青色 の中を フワリ。
真白 の一直線。

伝えたい事なんて 何時だって ひとつだけなんだ。
伝えられない事なんて 何ひとつ無い。
その周りを 回遊している。



そうだよ たったひとつ。


僕だとかの


君だとかの


ひとつだけ。



「半分、欲しい?」

「欲しくない」

「あげてもいいけど」

「もらってもいいけど」



カナカ あの頃の歌を覚えているかい?

忘れていても良いし 覚えていても良いよ。

只 どちらにせよ 僕等の本日に 繋がっている。


カナカは 半分の肉まんを頬張りながら ギターケースを広げた。

もう半分の肉まんを頬張りながら 僕は それを見てた。

地球が汚れたら 雪は降らなくなるかな。


「さてね どうだろう」


カナカの歌声が聴こえた。

カナカの歌声は細い糸のようだ。

細い糸を指ではじいたら

カナカの歌声になるんだ。


見ろよ カナカ。

ほとんど当たり前のように

それからひどく幸運な事に




「あ 雪だ」




僕等は自由だぜ。

そして

だから

僕は君と居るよ。



カナカ、此方は、どうだ。

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