■か行
黒の森




ウォォン。
ウォォン。

森は随分と昔から、其処に在りました。
町の人達は森が在る事を知ってましたが
誰ひとり森の事を話そうとはしませんでした。

森は、とても大きく、とても暗かったのです。

森は町から少し離れた
見晴らしの良い丘を越えた
其のずっとずっと先に在りました。

大人達は森に近付こうとはしませんでしたが
年に何人かの若者が森の中に迷い込みました。

若者が森の中に迷い込んでしまう理由を
大人達は理解する事ができませんでした。
だってそうでしょう?
森に近付かなければ良いだけなのですから。

そうして森の中に迷い込んだ若者が
再び町に戻る事はありませんでした。


ウォォン。
ウォォン。


何時の頃からか
夜になると森の方角から
狼の遠吠えともつかぬ
熊の鳴き声ともつかぬ
人の泣き声ともつかぬ
奇妙な音が風に乗り
町に響くようになりました。


ウォォン。
ウォォン。


其の度に
町の大人達は耳をふさいで
奇妙な音が通り過ぎるのを
じっと待つようになりました。


町に住む若者は言いました。


「あれは森に住む神様の声さ」









ウォォォォン。



ウォォォォン。



ウォォォォォォォォォン。



ウォォォォォォォォォン。



ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン。






森は、とても大きく、とても暗かったのです。



















『黒の森』




















エンデが森の前に立ったのは
満月がとても綺麗な夜でした。

エンデは満月を眺めて
「綺麗だな」
と一言だけ呟きました。

エンデは自分がこうして満月を眺める事は
もう無いだろうと知ってました。
目の前の森は、木や、枝や、葉や、草で覆われ
満月を眺める事などできそうになかったからです。

エンデは家からくすねてきた
父親の紙巻煙草をポケットから取り出すと
銀のライターで火を点けて大きく吸い込みました。

父親が煙草とライターを探す様子を想像して
少し悪い事をしたかなと思いましたが
あまり考えないようにしました。

そうして残りの煙草と銀のライターを
森に向かって投げ捨てました。

森へ入る瞬間
もう一度だけ満月を眺めました。

そうしてエンデは、森の中へ入って行きました。






森はすぐに暗闇になりました。
エンデが想像してた森とは少しだけ違いました。
息を吸うと紙巻煙草の先だけが赤く灯るだけで
エンデの周りに他に色はありませんでした。

エンデは海に潜った時の経験から
暗闇というのは少しずつ
底が深くなればなるほど
ゆっくりと訪れるものだと信じてました。

しかし森の暗闇は違いました。
ほんの少し足を踏み入れた瞬間に
誰かに背中をドンと強く押されたように
エンデは暗闇の真下に立たされました。


ウォォン。
ウォォン。


エンデが息を吸い込むと
紙巻煙草が赤色に明るく灯るので
しばらくの間、エンデは其れを眺めました。

そうするとエンデの不安は穏やかになって
エンデの足を森の奥へと再び進ませました。

木や枝にぶつかると危険ですから
エンデは手を普段以上に動かしました。
其れから耳を普段以上に澄ませました。


聴こえてくるのは風の音。
枝や葉が擦れる音。
エンデの心臓の音。
其れから。


ウォォン。
ウォォン。


やがて紙巻煙草の火も消えてしまいました。
エンデは自分の心を支えれてくれるものが
遂に全く何も無くなってしまった事を
少しだけ寂しく思いました。

エンデは
できるだけ楽しい事も
できるだけ悲しい事も
考えないようにしようと思いました。
ただ、森の中を歩こうと思ったのです。

エンデは
疲れた、だとか
眠たい、だとか
お腹がすいた、だとか
そういう一切も考えないようにしました。

其れから
父親の事だとか
母親の事だとか
兄弟の事だとか
友達の事だとか
煙草の事だとか
満月の事だとか
そういう一切も考えないようにしました。

エンデは、森を歩きました。








3.141592…








不意にエンデの頭の中に数字が浮かびました。
其れは子供の頃に学んだ円周率の数字でした。
エンデはこれは良い事を思い出したと
1人で小さく喜びました。

円周率の数字なんて楽しくも悲しくもない。
ひたすら続く数字の羅列なだけじゃないか。
楽しくも悲しくもなければ何も感じなくて良い。

たった1人で真暗な森の中を歩くのに
これ以上の最適な遊びなどあるもんか。

エンデは1人、森の中、円周率を歌って歩きました。




3.141592…
3.141592…
3.141592…
3.14159265358979323846264338327950288…




エンデは円周率に勝手なリズムを付けて
森の中をズンズンと歩きました。
実は円周率を何桁も言えるのが
エンデのちょっとした自慢だったのです。




3.141592…
3.141592…
3.141592…
3.14159265358979323846264338327950288…

ザンザン 出て来い数字達

3.14159265358979323846264338327950288…
3.14159265358979323846264338327950288…
3.14159265358979323846264338327950288…
3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164…




リズムに合わせて円周率を歌うと
エンデの足はドンドンと進みました。
エンデは自分の記憶を掘り下げて
もっと沢山の数字を歌いたくなりました。
エンデは歌いました。




3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
286208998628034825342117067982148086513282306647093844609550582231725359…

ザンザン 出て来い数字達

3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
286208998628034825342117067982148086513282306647093844609550582231725359…

ザンザン 出て来て僕を歩かせておくれ

3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
28620899862803482534211706798214808651328230664709384460955058223172535940
81284811174502841027019385211055596446229489549303819644288109756659334461
284756482337867831652712019091456485669234603486104543266482133936072602…




エンデがどれだけ歌っても
円周率はザンザンと溢れました。
エンデの足はズンズンと森を進み
森の中をドンドンと歩かせました。

其れは何時までも終わる事の無い
素敵な遊戯のようでした。




ウォォン。
ウォォン。



いいえ、違いますね。

エンデも円周率も
終わりなど求めてないのでした。

そうして其れは
ただ終わりを求めてないだけで
終わりが無い訳ではありません。




ウォォン。
ウォォン。




そもそも初めから
エンデは森の中に入って
何をしようとした訳でも無いのです。

何を得ようとした訳でも無く
何を捨てようとした訳でも無く
何を変えようとした訳でも無く

エンデにとっては
森の中に入る事が全てだったのです。

重要なのは自分が森に入る事実で
其処から何が起きたとしても
其れは事実の積み重ねでしか無く
エンデにとっては
森の中に入る事が全てだったのです。

円周率の最初の「3」を言った事が重要なように。

重要なのは「3」から円周率が始まる事実で
其処から何が起きたとしても
其れは数字の積み重ねでしか無く
円周率にとっては
「3」を始める事が全てだったのです。




ウォォォォン。
ウォォォォン。




エンデも、円周率も
終わりなど求めてないのでした。

そうして其れは
ただ終わりを求めてないだけで
終わりが無い訳ではありません。




3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
28620899862803482534211706798214808651328230664709384460955058223172535940
81284811174502841027019385211055596446229489549303819644288109756659334461
284756482337867831652712019091456485669234603486104543266482133936072602…


ザンザン 僕は今とても楽しいよ 歩みもよく進むんだ


3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
28620899862803482534211706798214808651328230664709384460955058223172535940
81284811174502841027019385211055596446229489549303819644288109756659334461
284756482337867831652712019091456485669234603486104543266482133936072602…


ザンザン 出て来い数字達 お願いだ 終わらないでくれ


3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
28620899862803482534211706798214808651328230664709384460955058223172535940
81284811174502841027019385211055596446229489549303819644288109756659334461
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だけれどエンデの心とは裏腹に
エンデは歌を止める事ができませんでした。

円周率の数字なんて楽しくも悲しくもない。
ひたすら続く数字の羅列なだけじゃないか。
楽しくも悲しくもなければ何も感じなくて良い。

たった1人で真暗な森の中を歩くのに
これ以上の最適な遊びなどあるもんか。

エンデは最初にそう考えていました。
ところがどうでしょう。
数字達がエンデの歌となって流れる毎に
数字達はエンデが暗闇の森を歩く為の
大切な仲間になってしまったのです。

ですからエンデは歌を続ける為に
もっともっともっと自分の記憶を掘り下げて
もっと沢山の数字を歌わなければなりませんでした。

そうして記憶の底に辿り着いてしまったら
エンデと数字達の遊びは終わってしまうのです。
エンデは終わりが来るのが堪らなく怖くなりました。

しかし森の中を宛も無く歩き続けるエンデは
数字達との遊びを止める訳にはいきません。
エンデは記憶を掘り下げて
さらに歌いました。




3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
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ザンザン もう出て来るな 終わってしまう 止めてくれ


3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
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ザンザン もう出て来るな お前を終わらせたくないのだよ


3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
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77477130996051870721134999999837297804995105973173281609631859502445945534
690830264252230825334468503526193118817101000313783875288658753320838142…




エンデの覚えてる円周率は
もう本当に残りわずかでした。

エンデはもう随分と長い時間、森の中を歩きました。
けれど暗闇の森は何処までも暗闇の森のままでした。
目が慣れる事もなければ、音が近付く事もありません。

目に見えぬ枝や葉がエンデの周りを覆い
常に一定の間隔で奇妙な音が聴こえる。
そうした暗闇が何処までも続いてるだけ。
其れだけでした。

本当はエンデは止まっても歩いても同じ事でした。
森へ入る事だけが目的だったのですから。
特に何の目的も無いエンデにとって
他には歩くしかすべき事が無かっただけなのです。

其れは初めのエンデにとって何とも無い事でしたのに
今こうして歌を終えようとしてるエンデにとって
其れは本当に心細い事でした。



エンデは止まってしまう事も怖くなりました。



エンデが歩く為には円周率が必要でした。
だけれどエンデの覚えてる円周率は
もう本当に残りわずかでした。

止まる事も歩く事も
選べないまま
其れでも

エンデは歌いました。








3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
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28475648233786783165271201909145648566923460348610454326648213393607260249
14127372458700660631558817488152092096282925409171536436789259036001133053
05488204665213841469519415116094330572703657595919530921861173819326117931
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64308602139494639522473719070217986094370277053921717629317675238467481846
76694051320005681271452635608277857713427577896091736371787214684409012249
53430146549585371050792279689258923542019956112129021960864034418159813629
77477130996051870721134999999837297804995105973173281609631859502445945534
690830264252230825334468503526193118817101000313783875288658753320838142…


ザンザン 終わりの歌をはじめよう 終わらせたくはないけれど


3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820974944592307816406
28620899862803482534211706798214808651328230664709384460955058223172535940
81284811174502841027019385211055596446229489549303819644288109756659334461
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ザンザン 僕の記憶と経験は 此処で終わってるよ 今までどうもありがとう


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ザンザン ザザン




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ザンザン ザザン




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エンデがどれだけ歌を繰り返しても
エンデの記憶から続きの数字は出てきてくれませんでした。
エンデは同じ歌の同じ部分までを何度も何度も歌いました。
もう何も出てきてはくれませんでした。

エンデは泣きました。



ウォォォォン。



ウォォォォン。



ウォォォォォォォォォン。



ウォォォォォォォォォン。



ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン。















やがて風が止みました。

エンデは歩くのも止めて座りました。
エンデは泣いて泣いて泣いて
本当に泣き疲れました。

エンデは歌の続きを歌いたくなりました。
だけれどエンデが覚えた円周率は
あれで全て終わりでした。








円周率の続きを覚えれば良いじゃないか。








其れはとても簡単な理屈でした。
再び歌い続けたいのなら
森を出て円周率を再び学んで
歌の続きを覚えれば良いのです。


森の中を歩く為に歌い始めた歌なのに?


そうですね。
エンデは矛盾してるかもしれません。
だけれどエンデは歌いたかったのです。

そう考えた途端
まず先生の顔が浮かびました。
円周率を教えてくれた先生の顔です。

それから友達の顔が浮かびました。
そうして兄弟の顔を思い浮かべると
父の顔も母の顔も思い浮かびました。

本当に、すぐ傍に居るようでした。

エンデは今すぐに森を出たくなりました。



其れからエンデが捨てた
煙草とライターを思い出しました。
父が家中を探してるかなと思いました。

銀のライターは父の宝物だから
とても悪い事をしたなと思いました。



するとエンデの座る足元で
小さな金属の音がしました。

エンデが地面をまさぐると
其れはライターでした。

思わずエンデは火を点けました。

其れは紛れも無く
父の宝物の銀のライターでした。






ザンザン。






エンデは森に入る寸前に
煙草とライターを森に向かって
投げ捨てた事を思い出しました。

ライターで地面と照らすと
思った通り煙草が落ちてました。

エンデは可笑しくて笑いました。

何の事は無い。
エンデは暗闇の森の中で
同じ場所をグルグル歩いただけなのです。

エンデは可笑しくて笑いました。

銀のライターで煙草に火を点けると
大きく息を吸い込んで
大きく息を吐き出して
其れからまた

エンデは可笑しくて笑いました。



エンデは森を出ると
すぐに夜空を眺めました。


大きな大きな満月が浮かんでました。


エンデは満月を眺めて
「綺麗だな」
と一言だけ呟きました。

そうして再び煙草をゆっくり吸い込むと
急いで父に謝らなければいけないなと
ぼんやり思いました。

そうしてエンデは家に帰りました。









ザンザン ザザン




ザンザン ザザン




ザンザン ザザン










其の後のお話。

町に帰ったエンデは
其れから数学の勉強に励み
沢山の円周率を覚えました。

そうしてやがて
学校の先生になりました。

エンデの記憶する円周率の桁数は
子供達の間でもちょっとした評判です。
あまり皆の前で披露する機会は無いようですけどね。

此の町の子供は円周率の記憶が得意です。
もちろんエンデの歌が授業に使われるからです。
今では近所の子供が何十桁でも覚えてるくらいです。



そうそう。
其れから、もうひとつ。
エンデが町に帰った直後の話。
或る若者がこんな質問をしました。



「森に神様は居たのかい?」



エンデは笑って言いました。

いいや、誰も居なかった。
それどころか何ひとつ無かった。
森は、とても大きく、とても暗かった。
ウッカリしてると自分も無くなってしまうほどだ。

ところが面白い事に
ひとつでも生きる目的を見付けると
森は、とても小さく、とても明るくなる。
本当に笑ってしまうくらいにね。

もしも神様が居るのだとしたら
森の中じゃないよ。
全ては町の中に隠れてるのさ。




何時の頃からか此の町では
若者が森の中に迷い込む事もなくなり
森から奇妙な声が聴こえる事もなくなりました。












ザザン ザンザン

ザザン ザンザン

ザンザン 始まりの歌を始めよう まだ終わってないよ

ザンザン さようなら こんにちは さようなら そしてまた

3.141592…


"von Schuldbewusstsein befreit werden."

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