■か行
君は無敵。
「何をしてるの?」
一冊目はチョコレイト・カラー。
誰だって大体、内緒のハナシが好きなんだよ。
君の事を全部、知って居たいな。
「昔の日記、読んでるの」
仕事帰りの君に向かって、僕は答えるワケ。
君は春色のコートなんか脱ぎながら「物好きね」と小さく笑う。
君は無敵。唯一の素敵。世の中には知らなくて良い事が沢山あるけれど。
それでも僕は知りたいよ。僕の知らない君の事。だって君が最強で、ずっと無敵だから。
「弱点を探してるのさ」
台所のケトルが音を鳴らして。
君は珈琲カップを手に取って。
鼻で笑って、僕に言うんだ。
「嘘、下手になったわね」
二冊目はダーク・オレンジ。
誰だって大体、内緒のハナシが好きなんだよ。
君の事を全部、知って居たいな。
「昔は嘘、上手かった?」
君は笑いながら顔を上げ、一瞬真顔で僕を見て、
それから眉間にシワを寄せ、真面目に怒ったフリをした。
珈琲カップに湯を注ぎながら「あんまり上手いと嘘にならないわ」と言った。
僕と君は何個かの嘘を共有し、何個かの本当を放棄し、例えば約束が嫌いだった。
「守れない事が、怖かった?」
「守れない自分を認める事が、怖かった」
「ああ、何処までも君は、君の世界で生きていたんだな」
三冊目はフォレスト・グリーン。
誰だって大体、内緒のハナシが好きなんだよ。
君の事を全部、知って居たいな。
「どうして昔の、日記なんか?」
君は無敵。唯一の素敵。
その理由と原因を、僕は知りたかった。
もしも僕等に少しでも、積み重ねたモノがあるならば。
それが嘘でも、本当でも、ましてや知らない過去だとしても。
「知って痛いな」
四冊目はアイヴォリー。
誰だって大体、内緒のハナシが好きなんだよ。
君の事を全部、知って痛いな。
僕の知らない昔の君が、僕の知っている今の君を、やはり型作っている。
小さな嘘と本当を、ささやかな現実に混ぜて、色んな色を生み出してきたというワケ。
僕の好きな君よ。今の君よ。
僕の知らない昔の君に、どうかよろしく伝えておいてくれ。
君は無敵だよ。呆れるほどに素敵なんだ。
過去を経て現在。そして瞬間。
来たるべき未来。
「何だか、よく解らないわ」
苦笑混じりに首を傾げて。
君は珈琲カップを木製テーブルの上に置いて、僕の横に座る。
僕は君のシャンプーの香りだとか、仕事帰りのパンの匂いだとかを感じながら、
僕等の今が幸せであるようにと、只、祈るんだ。
祈る為に、また笑うんだ。
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