■ま行
蜜柑色のワンピース




彼女から最初のメールが届いたのは、何曜日だったっけ?

彼女から最後のメールが届いたのは、何曜日だったっけ?


彼女の歩き方は、どんな感じだったっけ?

彼女の話し方は、どんな感じだったっけ?

彼女の食べ方は、どんな感じだったっけ?

彼女の舐め方は、どんな感じだったっけ?


鮮明に忘れて往くんだ。

音も無く通り過ぎる、遠方の船みたいだ。

太陽は、西にも、東にも、其れから南にも、傾いて居ない。

垂直に、若しくは地面に対して平行に、存在してるだけだ。


視点が変わるだけだ。

角度が変わるだけだ。

其れを僕等は変化と呼んで

後生大事に、此処まで来た訳だ。


愚かな歌だとか

惨めな歌だとか

其れでも今日を頑張ろうなんて歌が

ラブソングと呼ばれる名で、よく売れてるな。


何にもワクワクなんてしないんだ。

彼女が蜜柑色のワンピースを着て

僕の目の前に黙って立って居る方が

きっと、よほどワクワクするよ。


もしも太陽が北から昇ったら

きっと、よほどワクワクするだろうね。

だけれどそんなモノを望んでなんて居ないんだ。


太陽は正しく東から昇り

太陽は正しく西に沈めば良い。

其の途上で真上から、僕を見下ろせば良い。


そうしたら僕はきっと

今より少しだけ、彼女を思い出せると思う。


何時だったか、同じ太陽を浴びた事だとか

何時だったか、同じ太陽を眺めた事だとか

もしかしたら今日も、同じ太陽の下に居るのだと

忘れるばかりの毎日の中で、少しだけ思い出せると思う。


彼女から最初のメールが届いたのは、何曜日だったっけ?

彼女から最後のメールが届いたのは、何曜日だったっけ?


彼女の泣き方は、どんな感じだったっけ?

彼女の怒り方は、どんな感じだったっけ?

彼女の慰め方は、どんな感じだったっけ?

彼女の笑い方は、どんな感じだったっけ?


僕は、僕の掌を眺めてみる。

何ひとつ零した形跡なんて無いのに

何ひとつ残した気分に浸れないんだ。


不意に携帯電話の受信音が鳴っても

きっと其れは彼女からのメールなんかじゃないし

男友達からの馬鹿げた一言だったりするんだよ。


馬鹿げた一言に誘われて、汚れたジーンズを履いたりもする。

汚れたジーンズを履いて、部屋のドアを開けたりもするんだよ。

太陽は真上から僕を見下ろして、相変わらずだと鼻で笑ってる。


だけれど其れが、僕の今なんだし

だけれど其れが、僕と彼女が選択した日曜日なんだよ。

日曜日は何時も、素敵なんだぜ。

小銭と掌をポケットに入れて、日曜日の町に出るんだ。


レンタルビデオ屋でAV女優の握手会なんて

あんまり馬鹿らしすぎて、ワクワクしてくるぜ。

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