■な行
猫目のサリィ




太陽光線に五臓六腑を鷲掴みにされて目覚めるのさ。
ちょうど、ほら、あのクレーン・ゲームみたいなモンだよ。
百円硬貨を挿入して、太陽は獲物を狙うんだ。

そこで僕等は、布団だとか、泥濘だとか、絶望だとか
もしくは何時かの淡い記憶だとか、の中から鷲掴みにされる。
持ち上げられる。

君が死んでも、僕が死んでも、世界が回るのは真実だろう。
小難しい理屈で、君の気持ちを留めておけたら楽なのにな。

ねぇ、サリィ。

僕の大好きなサリィ。

僕の声は、君に聴こえるかな。

身勝手な人達の声だとかに、僕は疲れてしまった。
期待や信頼ならば、何度だって裏切った。
名前を変えて、容姿を変えて、そうだよ、惑星だって変えて。

大切な何かを「大切なんだ」って伝えるのは、よほど難しい事だ。
もしも赤土の惑星に不時着したら、きっと僕等は地球が恋しくなるよ。

カレーライスだとか、オムライスだとか、
ニンニクをたっぷり利かせたスパゲッティだとか、
大好きなロックンロールだとか、きっと恋しくなると思うんだ。

ウダウダと過ごす休日の午後だとか、
誘惑だとか、反発だとか、主張だとか、喧騒だとか、
まったくもって何もかも上手くいかない本日の出来事だとか、
恋しくてたまらなくなると思うんだ。

悲しいならば、泣いた方が良いんだって、サリィ。

苦しいならば、叫んだ方が良いんだって、サリィ。

なのにどうして僕等は何時も、我慢しちゃうんだろ?

誰も何も傷付けずに、上手くやろうとするならば、傲慢だ。
相転移性の、あの丘を行くように、それは傲慢なんだ。
嗚呼、また本日も、誰かが死んでしまった。

何を感じれば良いのか、何だかもうよく解らないけれど、
君が死んでも、僕が死んでも、世界が回るのは真実だろう。
小難しい理屈で、君の気持ちを留めておけたら楽なのにな。

青色ストライプのシャツを着て、誰かが歩いて行くよ。
それは大きく弧を描く、あの日のトンビの羽根によく似てる。
僕は煙草を深く吸い込むくらいしか出来ないからね。

届け、煙よ。

中央分離帯で野良猫が死んでたら、やっぱり悲しいよ。
僕等には何の思い入れもない野良猫だとしてもね。
すぐ傍を、車が猛スピードで走り去って行った。

赤信号も、青信号も、僕等が決めたルールだよ。
行くも、戻るも、自由だったはずだ。

赤信号の途中で。
誰かが車の窓を開けて、煙草の吸殻を捨てた。
その灰は野良猫に降りかかり、また青信号になった。



太陽光線に五臓六腑を鷲掴みにされて目覚めるのさ。



太陽光線に見付からないように、かくれんぼしよう。
百円硬貨を挿入して、太陽は獲物を狙うんだ。
最期まで、上手く逃げ切らなければいけない。
全てに呆れてしまわぬように。

それでもやっぱり、きっと僕は地球が恋しくなるよ。

カレーライスだとか、オムライスだとか、
ニンニクをたっぷり利かせたスパゲッティだとか、
大好きなロックンロールだとか、きっと恋しくなると思うんだ。

ウダウダと過ごす休日の午後だとか、
誘惑だとか、反発だとか、主張だとか、喧騒だとか、
まったくもって何もかも上手くいかない本日の出来事だとか、
恋しくてたまらなくなると思うんだ。


それから、君が恋しくてたまらなくなると思う。


猫目のサリィ。

黒髪のサリィ。

我侭なサリィ。

臆病なサリィ。


僕のサリィ。

僕のサリィ。


悲しいならば、泣いた方が良いんだって、サリィ。

苦しいならば、叫んだ方が良いんだって、サリィ。


もしも君が中央分離帯で行き場を無くした野良猫ならば

やっぱり僕も横に並んで、くだらない世界に舌を出してやるんだ。

太陽に見付からないように、くだらない世界を、君と逃げ延びてやるんだ。

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