■さ行
サラサラ




(全ては夜明け前だ。)



音が聴こえる。

海辺にやって来た。

波の音はあまり聴こえない。

だけれど只 延々と音は聴こえる。



色んな事が

例えばあの日

僕と君が交わした約束のように

忘れる気はサラサラ無いのに

気が付くとサラサラ零れてる。



やがて何一つ無くなる気がしてる。



僕等は永遠と思えるような愛撫を交わし合い

僕等の愛撫は永遠に続くのだと信じて疑わず

だけれど何時だって

或る種の絶頂を味わった後には

或る種の焦燥と終息だけ残して

全てはサめていく。



色んな事が

例えばあの日

僕と君が交わした約束のように

忘れる気はサラサラ無いのに

気が付くとサラサラ零れてる。



僕の手には何が残っているんだろう。



打ち上げられた貝を見付ける。

何も零れないように両手を固く閉じる。

もう零れないでくれと泣きながら祈る。

どんなに どんなに どんなに固く閉じても。

こんなに こんなに こんなに固く閉じても。



触れ合った肉体や

伝え合った言葉や

分ち合った感覚や

又は其れ等の誤解や

其れ等以外の誤解が

其の日のまま

例えばあの日

僕と君が交わした約束のように。



大切に

大切に

大切にしてたのに

今じゃ何処にだって見当たらない。



潮風は 弱く 強く 常に吹いている。

僕の足が何かを探すように歩いている。



君と掬い合った何の価値も無い砂が

時を重ねて愛しい砂に。

君と救い合った何の価値も無い時が

時を重ねて愛しい時に。



そうなったように。



毎日少しずつ

僕等が残した砂は

手の平の中から

サラサラとコボレル。



忘れる気なんてサラサラ無いのに

気が付くと毎日サラサラ零れてる。



忘れたくなんか無いんだよ。



そう

例えばあの日

僕と君が交わした唇付のように。






(全ては夜明け前だ。)






(波は乾く間も無く 砂を濡らしている。)






(これから僕等は 何ひとつ 音を聴き逃してはいけない。)






そうして僕は

今日も目を閉じる。



音が聴こえる。

海辺にやって来た。

波の音はあまり聴こえない。

だけれど只 延々と音は聴こえる。



零れる砂の音がする。



両手を大きく広げて

古い砂をバラマイテ

新しい砂を拾う事も

きっと大切なんだよ。



だけれど今は此処でもう少し

零れる砂の音を聴いていよう。



サラ。

サラ。

サラサラ。



サラ。

サラ。

サラサラ。

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