■さ行
スプライト




白球を追い駆けるように。

白煙を吐き欠けるように。


プカリと浮かんだ輪が消えて

ゴクリと水を飲んだんだ。


目が覚めて最初に浮かんだのは

僕の名前でも

君の名前でも

無くて

僕等の名前だった。


ポプラの枝が伸びている。

僕の部屋の窓際まで伸びている。

体感気温はグングンと上昇するから

夏だな と思った。


アダージョな音楽が聴きたい。

きっと 僕等にも優しいから。

グフタス・マーラー・アダージェット。


花屋さんが花束を包むように

其れはとても自然な事だ。

音楽は僕等を包む。


僕等は臆病で残酷だ。

其の上 おまけに 欲張りだ。

スプライトが飲みたいな。


部屋の温度を下げて

アンプから クラシックを流して

準備が出来たら スプライトを買いに行こう。


大好きなスニーカーを履いて

部屋のドアを開けると

夏色の熱気。


モアリ。


鍵をかけて

煙草に火を点ける。

歩き始めて

空を見上げるんだ。


白球を追い駆けるように。

白煙を吐き欠けるように。


プカリと浮かんだ輪が消えて

コクリと目を閉じたんだ。




許す事 許される事

恨む事 恨まれる事

苦しむ事 苦しませる事

悲しむ事 悲しませる事




声が聴こえる。




近所で子供が泣いてるな。




自転車が横を通り過ぎて行った。




何が正解で 何が不正解だったのか なんて

僕等には 決して 解らないよ。

声が聴こえるな。


否 是は既に 音だ。

其れから 張り巡らされた 文字だ。

僕等は其れを 何ひとつ 見逃さぬように

追跡したり

願望したり

時には読み解いた気分に なったりもしながら。


夏だな。

暑いな 夏は。

苦手なんだよな 夏は。


ポプラの葉が揺れる。

蒸し暑い風に揺れる。

揺れる。

揺れる。

別に意味なんて無い。



嗚呼 夏だな くそぅ。



はよスプライト 買いに行こ。

はよスプライト 買って飲んだろ。

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