■た行
太陽のダンク




小さな穴場から太陽を眺めてるんだ。


楽しい事なんて何にも在りゃしない。

隣の隣の隣のクラスの下級生が

屋上から飛び降りたから鼻で笑った。


根性あるよな。

年下のくせに。


教卓を囲んで、女子が何か話してる。

何がカッコイイって?

何を言ってんのか、よく聞こえねぇよ。


前の席じゃ無駄に金髪な素人童貞野郎が

ヘッド・フォンしながら、くだらねぇ雑誌を読んでるわ。

何か変な音的なアレが、何かシャカシャカ漏れてるわ。

コイツ名前なんつったっけかな。


お前のヘッド・フォンはアレか。

そんなくだらねぇ音楽を聴く為に存在してんのか。

肩口にカッター・ナイフを振り上げて、何かやっぱやめた。


面白くねぇ。

面白くねぇな、何だコレ。


親戚の子供は、今年で何歳になったっけ。

妙に懐いてくるから、テレビ・ゲームの相手をしてやった。

何度もボコボコに負かしてやるんだけど、全然やめようとしない。

何度もボコボコに負かされて、何が楽しいのか解らんけど、全然やめない。


何かちょっと可哀想になったから、わざと負けてやった。

そしたら大声で泣きやがった。


カルピスが薄いよなぁ。

カルピスが薄いせいだぜ、こんなモン。

だからといって濃すぎるカルピスも、考えモンだよな。



小さな穴場から太陽を眺めてるんだ。



彼女は何で屋上から飛び降りたんだろ?

死にたくなるほど悲しい事なんて

世の中に、そうは無いと思う。

生きたくなるほど楽しい事なんて

世の中に、そうは無いけれど。


現国のテストが23点だった。

死にたいわぁ。

だけどマイケル・ジョーダンと同じ番号だから

何とかなるような気もするわ。


教卓を囲んだ女子が

変な雑誌を取り出した。

開いたページが見えた。


ああ、アンタ達の大好きなアレか。

そういや前の席でコイツが聞いてるのも

アンタ達の大好きなアレの曲だった。

はいはい、カッコイイ。



青いな、空。

意味ねぇな。



机の中から取り出した

大好きなロックを聴きながら

大好きなマンガでも読んだろ。


お前らには絶対に、この良さなんて解らない。

絶対に分けてやるモンか。


端から見たら

前の席のコイツも僕も

似た者同士なんだろな。



何で泣いたんだろ、アイツ。



見ろよ、彼女が飛び降りたって

もう誰も彼女の話なんかしてないんだぜ。

こんなに虚しい事ってあるかよ。


屋上から見た景色はさ

どんなだった?


きっとすげぇ驚いたと思うんだよ。

こんなに綺麗な景色が在ったんだなって。

だってウチの学校の屋上はさ、とびきり綺麗なんだよ。


空と地面が一直線に伸びて

遠くには塔が見えただろ。

夕日も見えたはずだ。


一度、その話をしたかったよ。

飛び降りなくて良かったのに。

あの場所は僕も大好きなんだ。




嗚呼、何で泣いたんだろ、アイツ。




間抜けなチャイムが鳴ったら

何事も無かったように、席に座ろうぜ。


英語の教師の、チョークを持つ手がオカマっぽい。

世界史の教師の、世を悟ったような視線が気に食わない。

現代国語の教師は、大学上がりの美人だから23点は申し訳なかった。


次はジョーダンがブルズに復帰した時の

あの番号を目標にしよう。

45点。



ああ、そうか。



もしもジョーダンだったら

あの屋上から飛んでも

華麗に太陽をダンクして

そのまま着地できそうだ。



小さな穴場から太陽を眺めてるんだ。



華麗なダンクのタイミングを

虎視眈々と狙ってる。

何時だって。


彼女も太陽をダンクしたかったのかな。

だとしたら

やっぱり一度、その話をしたかったよ。


数学の教師は、何故か白衣を着てる。

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