■た行
掌の雪




今宵は雪が降って居ますね。

今頃、君は掌を大きく広げて
降り積む雪を集めて居るのでしょう。

雪は綺麗ですね。
どれだけ足跡を残しても
あれほど跡形も残さずに
やがて溶けて消えるならば
雪はやはり儚いモノですね。

もしも其の雪を君が掌に残したいと願うならば
やがて雪は溶けて消えたとしても
君の中に何時までも残るのかもしれませんね。

掌を固く握って何ひとつ零さないようにすれば
やがて雪は溶けて消えたとしても
君の中に何時までも残るのかもしれませんね。

今頃、君はそんな事を考えて居るのでしょう。

ところで君は其の掌を
此の先どうするおつもりですか。

掌で溶けた雪を
既に存在しない雪を
何も無い掌を固く握って
後生大事に
君は生きて往くのですか。

他人が掌を開けと
どんなに優しく声を掛けても
どんなに優しく肌を撫でても
君は掌を固く閉ざした侭なのですか。

君は怖いのでしょう。

次に掌を開いた時に
其処に在るモノと
其処に無いモノを
確認する事が。

本当は随分と前から気付いて居るのに
気付かない振りを続けて来たのでしょう。

其の日の雪が
どれほど大切だったのか
私は知る由も無いけれど。



嗚呼、どうか怖がらないでくれませんか。



何も怖い事など無いと
私が傍で笑ってあげるから。
何も怖い事など無いと
私が傍で泣いてあげるから。

雪は溶け
水に流れ
光と遊び
空へ舞い
雨は降り
土に還り
花が咲く。

世界は其れを繰り返す。

何度でも。
何度でも。

春が来て
夏が来て
秋が来て
冬が来る
其の度に
降り積む新しい雪を
其の年に降る最初の雪を
君の掌に掴んでくれませんか。
そうして生きてはくれませんか。


もしも君が望めるならば
君が掌に掴む毎年の雪を
私は傍で眺めたいのです。

雪が降り
其の瞬間を共に眺めて
私は美しいと感じたいのです。

雪が溶け
其の瞬間を共に眺めて
私は寂しいと感じたいのです。

春になれば君と笑い
夏になれば君と怒り
秋になれば君と泣き
冬になれば君と待つ
また雪が降る日を。

何度でも溶け。
何度でも降る。
世界は其れを繰り返す。
生きて居れば。


嗚呼、どうか君の掌を開いてください。

怖がらないで。

怖がらないで。

大丈夫。

じゃないと私は何時まで経っても

君の掌を握る事さえ許されないのよ。

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